地域産品の商品開発でターゲットを絞るとは、買う人を狭めることではありません。誰に選ばれる理由を作るのかを、明確にすることです。
商品開発では、よく「ターゲットを絞る」という言葉が使われます。ただ、この言葉は少し誤解されやすいと思います。買ってくれる人を減らすこと、一部の人だけに向けること、売れる可能性を狭めること。そんなふうに感じられることがあるからです。
地域産品の商品開発でも、「幅広い人に買ってほしい」という気持ちは自然です。せっかく良い商品を作るなら、できるだけ多くの人に届けたい。そう考えるのは当然のことです。けれど実務では、「誰にでも向けた商品」は、結果として誰にも伝わりにくくなることがあります。
ターゲットを絞るとは、買う人を減らすことではなく、最初に誰のための商品として伝えるのかを決めることです。
幅広い人に向けるほど、伝わりにくくなる
地域産品の商品開発では、こういう表現がよく使われます。幅広い世代に喜ばれます、どなたにもおすすめです、家族みんなで楽しめます、贈りものにも自宅用にも使えます。どれも間違いではありませんし、実際に幅広い人に楽しんでもらえる商品もあります。
ただ、商品ページやパッケージで最初に伝える言葉としては、少し弱くなります。生活者は商品を選ぶとき、もっと具体的な状況で考えているからです。母の日に贈れるか、職場で配れるか、お酒好きの方に合うか、目上の方に失礼がないか、子どもがいる家庭でも楽しめるか。自分の用事に合っているかを見ています。
「誰にでもおすすめ」はやさしい言葉ですが、選ぶ理由としては弱くなりやすい。だからこそ、最初に誰へ向けるのかを決める必要があります。
ターゲットは属性だけではない
ターゲット設定というと、年齢や性別を決めることだと思われがちです。30代女性、40代男性、都市部に住む人、子育て世代。こうした属性も参考になりますが、地域産品の商品開発では、属性だけでは足りません。大切なのは、どんな場面で、どんな理由で商品を選ぶ人なのかです。
たとえば同じ40代女性でも、母の日に贈るものを探している人、職場で配るお礼を探している人、週末に家族で楽しむお菓子を探している人、自分では買わない少し良いものを探している人では、求めているものが違います。ターゲットは「誰か」だけでなく、「どんな用事を持っている人か」で考える必要があります。
どんな用途で市場を選ぶかという視点は、地域産品はどの市場で戦うべきかで解説しています。この記事では、選んだ相手に向けて商品をどう設計するかを見ていきます。
地域産品でやりがちな失敗
地域産品の商品開発でよくあるのが、地域の価値を前に出しすぎて、誰に向けた商品かが見えにくくなることです。地元の素材を使っています、地域で長く親しまれています、伝統製法で作っています、作り手が丁寧に仕上げています。これらは大切な価値です。
けれど、それだけでは生活者にとっての使い道が見えにくいことがあります。この商品は誰に贈るとよいのか、どんな場面で使うとよいのか、自分の暮らしにどう関係するのか。そこが見えないと、商品は選ばれにくくなります。地域の価値は、ターゲットと結びついたときに、選ぶ理由になります。
「誰に売るか」ではなく「誰が選びやすくなるか」
ターゲットを考えるときは、「誰に売るか」だけでなく、「誰が選びやすくなるか」と考えると分かりやすくなります。
たとえばある地域のお菓子を、単に「地域素材を使った焼き菓子」と伝えるのではなく、甘すぎないものを贈りたい人へ、目上の方にも渡しやすい手土産、職場で配りやすい個包装ギフト、お酒にも合う大人のお菓子。このように整理すると、選ぶ人の顔が見えてきます。商品そのものを大きく変えなくても、誰が選びやすくなるかを考えるだけで、伝え方は変わります。ターゲット設定は、商品を狭める作業ではなく、選びやすくする作業です。
ターゲットを絞ると、商品設計が決めやすくなる
ターゲットが決まると、商品設計の判断がしやすくなります。職場で配るギフトなら、個包装や日持ち、数量、価格帯が重要になります。目上の方への贈りものなら、箱の質感、包装、見た目の品格、説明カードが大切です。自宅で家族と楽しむ商品なら、量や食べやすさ、親しみやすさが効いてきます。
誰に向けるかが曖昧なままだと、どの要素を優先すべきかが決まらず、あれもこれも入れた商品になりがちです。ターゲットを絞ることで、何を入れるかだけでなく、何を入れないかも決めやすくなります。
価格の見え方も変わる
ターゲットが変わると、価格の見え方も変わります。同じ3,000円の商品でも、自宅用として見るのか、ギフトとして見るのかで印象は違います。自宅用なら少し高く感じるかもしれませんが、目上の方への贈りものや法人のご挨拶として見ると、ちょうどよく感じられることもあります。
価格は数字ですが、生活者は数字だけで判断しているわけではありません。その商品がどんな場面で使われるものなのか、相手にどう見えるのか、価格に見合う理由があるのか。そこを見ています。だから価格設計もターゲットと切り離せません。誰に向けた商品なのかが決まると、適正な価格帯も考えやすくなります。
写真や商品説明も変わる
ターゲットが変われば、写真や商品説明も変わります。自宅用なら、食べる場面や量、味の分かりやすさを見せたい。ギフトなら、箱を開けたときの印象、包装、贈る場面が重要です。法人向けなら、きちんと感、数量対応、のし、配送、日持ちが気になります。
同じ商品でも、誰に向けるかによって見せる順番は変わります。商品説明も同じで、作り手が伝えたいことを並べるのではなく、ターゲットが知りたいことに答える。これが、伝わる商品説明の基本です。
ターゲットは一人に決めすぎなくてもよい
ターゲットを絞ると聞くと、一人のペルソナを細かく作らなければいけないと思うかもしれません。名前、年齢、家族構成、趣味、休日の過ごし方。そうした設定が役立つこともありますが、地域産品の商品開発では、最初から作り込みすぎなくてよいと思います。
大切なのは、選ばれる場面が見えていることです。誰に贈るのか、どんな用事で買うのか、どんな不安を持っているのか、何が決め手になるのか。ここが見えていれば、ターゲット設定は十分に実務で使えます。細かい人物像を作ることより、選ぶ理由を明確にすることが大切です。
ターゲットは途中で変えてよい
商品開発の最初に決めたターゲットが、必ず正解とは限りません。実際に販売してみると、想定とは違う人に選ばれることがあります。自宅用と思っていた商品がギフトでよく売れる。若い人向けと思っていた商品が、年配の方への贈りもので選ばれる。観光客向けと思っていた商品が、地元の法人ギフトで使われる。
だから、ターゲットは一度決めたら終わりではありません。最初は仮説でよく、売場やECの反応を見ながら少しずつ磨いていく。ターゲット設定は、固定するためではなく、検証するための軸です。
おわりに
ターゲットを絞るとは、買う人を減らすことではなく、誰に選ばれる理由を作るのかを決めることです。幅広い人に届けたい気持ちは大切ですが、最初から「誰にでも」と伝えると、商品はかえって選ばれにくくなります。
誰に向けた商品なのか、どんな場面で選ばれるのか、どんな不安を取り除くのか、どんな価値を届けるのか。そこを整理することで、商品開発、価格、写真、商品説明、パッケージの方向性が見えやすくなります。地域の価値を、選ばれる形に翻訳する。その第一歩として、ターゲットを絞ることはとても大切です。
▼地域産品の商品開発を市場・設計・伝え方・数字の4つの視点で整理する全体像は、売れるは設計できるとは何かで解説しています。
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