地域産品の現場にいると、作り手の想いに何度も心を動かされます。
なぜこの商品を作るのか。どんな素材を選んでいるのか。何を守ってきたのか。その話を聞くと、同じ商品でも見え方が変わります。想いは、地域産品の確かな価値です。
それなのに、商品ページや売場では、その想いがうまく届いていないことがあります。
想いがないから売れないのではありません。多くの場合、その逆です。想いが強く、語りたいことが多いからこそ、かえって伝わりにくくなっている。今日は、その「語りすぎ」がなぜ起きるのか、作り手の側から考えてみたいと思います。
なぜ、作り手は想いを語りたくなるのか
作り手が想いを語りたくなるのは、自然なことです。
商品には、外から見えない時間があります。畑のこと、仕込みのこと、気温や湿度を見ながら調整していること。うまくいかなかった年のこと。やめようと思った時期のこと。それでも続けてきた理由。
その積み重ねを知っているからこそ、「これだけは伝えたい」が増えていきます。素材のこだわりも、製法の手間も、地域への想いも、どれも本当のことで、どれも削りたくない。
ここに、最初のすれ違いが生まれます。作り手にとって想いは「伝えたいことのすべて」ですが、買い手にとっては「商品を選ぶときの判断材料のひとつ」にすぎないからです。同じ想いでも、立っている場所が違うと、重さの感じ方が変わります。
作り手の努力と、買い手の関心は一致しない
作り手が一番伝えたいのは、努力やこだわりであることが多いです。
どれだけ手間をかけたか。どれだけ素材を吟味したか。どれだけ妥協しなかったか。それは事実であり、誇りでもあります。
けれど、買い手が最初に見ているのは、努力の量ではありません。自分に合うか。贈る相手に喜ばれるか。価格に納得できるか。使う場面が浮かぶか。失敗しないか。
努力は、買い手にとっては「あって当然のもの」として受け取られることもあります。「丁寧に作りました」「手間ひまかけました」という言葉は、多くの商品が使うため、それだけでは違いになりにくい。
これは、努力が無意味だということではありません。努力の話を、買い手の関心に接続しないと、せっかくの努力が伝わらない、ということです。「手間をかけた」で終わらせず、「手間をかけたから、こういう味になっている」「だから、こういう場面で失敗しない」まで届けて、初めて努力は価値になります。
想いは価値だが、選ぶ理由とは少し違う
想いは、商品の背景です。背景があることで、商品には深みが生まれます。
けれど、背景と「選ぶ理由」は、同じではありません。
人が商品を選ぶとき、最初に動くのは「自分の用事に合いそうだ」という感覚です。その感覚が生まれたあとで、背景を知ると、「ただのお菓子ではなかった」「この人が作っているなら」と、納得が深まります。
つまり、想いは入口ではなく、納得を支えるものとして効いてきます。最初から想いを前面に押し出すより、まず商品に関心を持ってもらい、そのあとで想いが届くように設計する。順番を変えるだけで、同じ想いがずっと伝わりやすくなります。
想いは、押し出すものではなく、支えるもの。そう考えると、伝え方の設計が変わります。
想いを語りすぎると、何が起きるのか
想いを語りすぎると、買い手の側に、いくつかのことが起きます。
ひとつは、読む前に疲れてしまうことです。まだ商品に興味を持つ前の段階で、長い苦労話やこだわりの細かい説明が続くと、読む準備ができていない人は離れてしまいます。
もうひとつは、肝心の情報が埋もれることです。どんな味なのか、誰に贈れるのか、日持ちするのか。買い手が本当に知りたい情報が、想いの文章の奥に隠れてしまう。
そしてもうひとつ、これが一番もったいないのですが、熱量が「自己満足」に見えてしまうことがあります。作り手にとっては誠実そのものの言葉でも、関心を持つ前の買い手には「売り込み」や「ひとりよがり」に映ってしまうことがある。想いが強いほど、この落とし穴は深くなります。
自己満足に見えないために必要な翻訳
想いを「自己満足」に見せないために必要なのが、翻訳です。
翻訳とは、想いを薄めることではありません。想いを、買い手が受け取れる形に置き換えることです。
たとえば「素材にこだわっています」は、作り手の言葉です。これを「香りがよい」「後味が軽い」「小さなお子さんにも食べやすい」と置き換えると、買い手のメリットになります。
「昔ながらの製法で作っています」も同じです。「食感がしっかりしている」「余計なものを加えていない」「大量生産にはない表情がある」と変えると、買い手が理解しやすくなります。
想いを消すのではありません。想いを、買い手の生活の中に置ける言葉にする。これができると、熱量はそのままに、押しつけがましさだけが消えます。
想いを届けるために、整理したいこと
作り手の想いを商品ページや売場で伝えるとき、次の問いから整理すると、語りすぎを防げます。
その想いは、買い手にとってどんな価値になるのか。誰にとってうれしいことなのか。どんな場面で意味を持つのか。短い言葉で言うなら、どう言えるか。そして、詳しく知りたい人には、どこで背景を読んでもらうか。
特に最後の点が大切です。想いを全部、最初の一画面に詰め込む必要はありません。最初は商品に関心を持ってもらい、興味を持った人が、もっと知りたくなったときに背景を読める場所を用意しておく。この「階段」があると、想いは重くならずに、ちゃんと届きます。
おわりに
作り手の想いは、地域産品にとって、かけがえのない価値です。
けれど、想いが強いからこそ、語りすぎてしまうことがあります。そして語りすぎると、せっかくの想いが、かえって届きにくくなる。
大切なのは、想いを減らすことではありません。想いを、買い手が受け取れる順番と言葉に翻訳することです。まず商品に関心を持ってもらい、そのあとで想いが効いてくる。その設計ができたとき、作り手の想いは、初めて選ばれる理由になります。
地域の価値を、選ばれる形に翻訳する。作り手の想いを本当に届けるためにこそ、その視点が必要だと考えています。
▼地域産品の商品開発を市場・設計・伝え方・数字の4つの視点で整理する全体像は、「売れるは設計できるとは何か」で解説しています。
▼地域産品が選ばれない理由の全体像については、ECで売れない地域産品に共通する課題でも整理しています。


コメント