私が「価値は翻訳されて初めて伝わる」と考えるようになった原点のひとつに、ドイツで過ごした時間があります。中学2年から高校3年まで、私はドイツの現地校に通っていました。
登校初日、ドイツの学校にお弁当で持って行ったおにぎりが、誰にも理解されなかった。その小さな出来事が、今の私の原点になっています。
母が握ってくれた塩むすび。日本では当たり前のお弁当です。しかし教室で包みを開けると、同級生たちはそれが何なのかわからない。海苔の黒さに戸惑いながら、興味深そうに眺めていました。おいしいかどうか以前に、まず存在そのものが伝わっていなかったのです。
「知らないもの」は、おいしさ以前に伝わらない
あれから長い年月が経ちました。今では海外でも寿司が当たり前に食べられ、おにぎりや抹茶ラテも世界中に広がっています。日本の価値は、富士山や芸者、忍者といった象徴的な存在だけでなく、日常の食やコンテンツとして受け入れられるようになりました。
けれど、それは自然に広まったわけではありません。その背景には、常に誰かの「翻訳」がありました。日本のものをそのまま持っていくのではなく、現地の暮らしや文化に合わせてローカライズし、伝え直すこと。知らないものを、選びたくなるものへ変えていくこと。あの日のおにぎりと、今のおにぎりの間には、そうした翻訳の積み重ねがあります。
同じことが、日本の地域にも起きている
そして私は、同じことが日本の地域にも起きていると感じています。全国には魅力的な商品や文化が数多くあります。手間をかけてつくられたもの、長く受け継がれてきた技術、土地ならではの風土や物語。
しかし、それだけでは選ばれません。知られていない。出会う機会がない。価値が伝わっていない。その結果、本来は多くの人に届く可能性を持ちながら、市場の中で埋もれてしまうものも少なくありません。
「良いものをつくること」と「選ばれること」は別の技術
私は長年、百貨店のバイヤーとして全国の産地や事業者を訪ねてきました。その中で感じてきたのは、「良いものをつくること」と「選ばれること」は別の技術だということです。
地域ギフト研究所では、地域にある価値が、どのように伝わり、広がり、やがて人の暮らしの中に定着していくのか。商品開発、ギフト化、EC改善、言葉、写真、デザイン、AI活用など、さまざまな視点から「価値翻訳」の方法を研究しています。
▼ 地域らしさを贈る理由へと翻訳する考え方の全体像は、地域らしさは入口ではなく背景になる|地域産品をギフト化するための価値翻訳 で解説しています。


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